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(第128回)公開セミナー:野村先生への質問と回答

野村彰男先生よりご視聴頂きました皆様へ

「セミナーへのご質問ありがとうございます。まず、ご質問へのお答えの前に、ビデオカメラに向かって話をすることに慣れず、原稿から目を上げられない見苦しいセイナーになったことをお詫びいたします」

【質問1(質問者:K)】

大変参考になる講義をいただきありがとうございました。
習近平は鄧小平前の共産党体制への復帰を志向していると伺いました。現在中国の企業の中にはグローバル化し市場、技術、情報、運営体制も世界的な規模のものもあり、かつ株式もNY市場に上場している。
中国の独禁法など運用で共産党体制の保持を図ると国内外の株式会社の運営、経済活動との間でコンフリクトが考えられる。中国のこれからの経済力の低下につながるのではないか。

【野村彰男先生からの返答】

セミナーでも申しましたが、中国の習近平主席は鄧小平の教えをかなぐり捨て、毛沢東と並ぼうとしていることは明らかだと思われます。そのために彼は胡錦涛から政権を引き継いだあと、着々と権力基盤を固めてきました。その第一が腐敗防止キャンペーンです。中国の中央、地方の幹部たちは叩けばホコリの出る人物がかなりいますから、野心家でいずれ自分に挑戦しかねない指導者を次々に排除してきました。代表的な例が大連市長で名を売り、重慶のトップとなった薄熙来です。彼は父親が元副総理の薄一波、いわゆる太子党です。
 私は1990年代の半ばに朝日新聞の論説副主幹のとき、論説委員10人余りで大連へ研修旅行をし、売り出し中の薄熙来市長と市庁舎で会見しました。自信満々の様子で私たちの質問に大きな身振り手振りで英語で答え、いかにもやり手風でしたが、重慶市長になったころ、あまりに野心むき出しなスタイルが党で目を付けられ、結局逮捕され党籍をはく奪され失脚しました。これが一番目立った例かもしれませんが、その後も腐敗摘発は続きましたし、軍の掌握力も目立ってきていました。綱紀粛正も明らかに進んでいます。会合で料理を有り余るほど出し、昼から酒を酌み交わす習慣も、数年前まで国連活動で中国へ行ったときの政府関係者も入った会合で、目立って引き締められていることを実感しました。
 少し話がそれましたが、おっしゃるように大変な経済発展をとげてきた中国は、それ故に、好むと好まざるとに関わらず、貿易、経済のあらゆる面で国際ルール、市場の動向に神経を使わざるを得ません。いわば出島の役割をしていた香港も強権で締め上げた結果、緩衝地帯もなくなったいま、これまでのように別次元のスピードで発展、拡張することはずでに難しくなっています。ファーウェイやアリババなどもそれぞれに国際的にも国大的にも問題に直面しています。それとは別に、ここまで生産基地としての中国への日欧をはじめ先進国の投資は極め大きかっただけに、中国における人権問題への世界的な非難の高まりも様々な場面で障害になるのではないでしょうか。中国も少子高齢化を迎え、その面からの経済成長の鈍化も避けられなくなるのではないでしょうか。

【質問2(質問者:H)】

①野村彰男氏も”向かうところ敵なし“と述べられている、中国・習近平主席にとっての”政敵“はいないのか?

②習近平の政敵になることを怖れて、「アリババ・グループ」の馬雲氏を”放逐“した、と言われているが事実か?

③習近平がかなり強引に進めようとしている、所謂「一帯一路」構想の成否は、如何と思われますか?

④質問ではありませんが、「トップが責任をとらない組織はだめになる」という立花 隆氏の言葉に感嘆しました。

【野村彰男先生からの返答】

①中国の専門家でもありませんが、私が知る限り、今現在、習近平のライバルは居るようにはみえません。放っておくと自分のポストを脅かす可能性のある人物は排除したか、抱え込んでしまった結果だと思います。最近、全人代などの大きな会合で、党のトップが壇上に現れるとき、習近平がまず登場し、そこから明らかに3メートル余遅れて李克強が表れ、そのあとはみな2メートル間隔ぐらいの等距離を置いて登壇するようになりました。以前はみな等距離で出て来ましたが、明らかに別格扱いです。2,3年前までは見られなかった現象です。

②Kさんのご質問でも触れましたが、アリババの大成功は馬雲氏が政敵になることを恐れるということより、党がコントロールできなくなるのは避けようという側面が強いのではないでしょうか。正直に申しますと、このご質問にお答えする情報は残念ながら持ち合わせません。

③「一帯一路」は、インフラ投資で流通網を整備していくという点では貿易経済にプラスになる面は大きく、個人的には、グローバル化が進む限りこれに正面切って待ったはかけにくいだろうと思います。もちろん、中国のインフラ投資の条件が途上国側に重荷になっているというような負の部分は、G7サミット合意に基づく民主主義国のインフラ投資がしかるべき規模で実現し出せば、修正されていくだろうと思います。

④私も立花さんのあの指摘は心に響きました。私が政治記者であった時代の政治指導者は佐藤栄作さんから中曽根康弘、竹下登さんのころまででしたが、行政府の人事を握って、官僚を官邸の言うことにたてつかなくさせる、と言った人はいませんでしたね。田中角栄は各省庁に大変なにらみを利かせたと言えますが、大蔵省はじめ通産省、郵政省、建設省などの役人は、自分たちの狙いとする行政を実現するために喜んで政治力を利用していたと言う方が現実に近いと思いました。日中国交も田中の政治力と大平の思考力、外務省掌握が相まって実現したと思いました。

【質問3(質問者:S)】

①日本のデジタル化が遅れていることに関して。 マイナンバーカード政策が進展しない等これまで多くの国民がそれを望まなかった現実があることも認識しています。他には何が日本でのデジタル化が遅れる原因と考えられますか。今後への提案があればご教示ください。

②戦後昭和のバブル時代に青年期を過ごした世代には「沈む日本」の実感がありますが、次の時代を推進する世代には現状況が出発点となります。
ご経験から次の世代、現役世代にはどのようなアドバイスを伝えたいとお考えですか。

③「トップが責任を取らない組織はだめになる」との立花隆氏の言葉はまさに実感するところです。民間ではそのような組織は倒産する等結果で明確に示されるのですが、政治、公的組織においては明確な結果が見えず、組織改革は進みにくいことに危惧を抱いています。
一歩でも改善できるように取り組むのにはまずどこからとお考えでしょうか。必要と考えられる視点等をご教示ください。

【野村彰男先生からの返答】

①デジタル化の遅れですが、コロナ禍のさまざまな混乱で、日本のIT戦略やデジタル化の遅れがすっかり世界でも知られることになってしまいました。何か一つというより、日本の政治。行政のあり方がはらむ欠陥がもたらしたと言うべきかと思います。小泉政権の当時の2001年にも、2003年までに電子行政を実現し、世界最先端のIT国家にという目標をたてましたし、2017年になってOECD36か国の中で日本は電子政府化が35位と非常に立ち遅れていることも指摘されていました。よく政治の劣化、官僚の劣化という指摘がなされますが、1970年代から2000年代はじめまで日本政治を追ってきたものとして、戦後の吉田、鳩山、石橋、池田、佐藤といった世代は日本が犯した過ちも含めて戦中戦後の苦しい時代を経て、自ら日本の復興と国際社会への復帰に立ち向かった世代ですし、その後の田中、三木、福田、大平、中曽根といった人々も、吉田、池田、佐藤と言った前の世代の指導者を支えながら、占領時代から次第に高度成長をとげる過程で、それぞれの時点で取り組むべき政策の優先課題やそれを実現するために内閣や行政でなすべきこと、といった大局観、歴史観、使命感というべきものがあったと思います。
最近の政治家たちの言葉の劣化は、2世、3世、4世といった苦労知らずの生い立ちの中で、留学して英語はうまくなり、身ごなしも洗練されたという面はあっても、官僚が時の政治指導者に心酔し、目指すものを共に実現しようと燃えるような姿は見られません。政治家におもねり政府の文書を改ざんさせたり、そういう行政を恥ともしない大臣や首相が君臨する中で、世界の潮流をみてIT化、デジタル化の必要を認識し、政府あげてその実現に取り組むような政治指導者がおらず、かつては世界最大のシンクタンクと言われた行政府も動かないまま、漫然と縦割り行政、国政と地方自治のバラバラ行政が続いてきたということでしょう。
 喧伝されたアベノミクスや「骨太の方針」が何を実現したのか、それによって世界一の借金大国になっている日本の未来はどうなるのか、気候危機や先進国日本における格差拡大を持ち出すまでもなく、本当にこれからの世代のことが心配になりますが、コロナでそうした実態が明るみにでたことが、日本再生のよいきっかけに転じることを祈ること切です。

②上の質問でも触れましたが次の世代に何がアドヴァイスできるかは一番頭の痛いところですよね。私はかかわっているNPOで日本に留学して日本の大学、大学院でマスターやドクターをとることを目指すアジアの留学生に奨学金を出す活動(選考委員)を10余年続けております。その活動をしながら、しっかり目標を持って勉強しようとする応募者をみながら、日本の大学生にこそ留学生たちに負けないハングリー精神や自分が目指す明確な目標をもってほしいと思ってまいりました。コロナで大学でもリモート授業が行われ、海外の提携大学の授業に留学しなくてもリモートで参加し、単位をとるというような道も開けはじめました。グローバル化の時代です。日本の社会にこもることなく、様々な奨学制度や民間の制度に食いついて、海外へでかけて勉強し、研究をつづけるもよし、現地で職を得るもよし、帰国して海外経験を活かした生き方をするもよし、大きく踏み出していってほしいと願っています。

③私も立花さんの言葉にハッと思わされた一人です。ご指摘の、政治の世界では目に見える結果が見えない、と言う点ですが、わたしは前から日本の有権者が従順で、なかなか政治家の責任を厳しく問わず、長いものに巻かれ続けてきた結果を抜きには考えられないと思っています。コロナで、いま政府のやることに地方自治体の長たちが嚙みついたり、反旗を翻したりするところがあって、こんな首長たちから首相が生まれる国になてもいいと思います。私はアメリカ政治の取材が長かったのですが、私がワシントンで担当した大統領のカーターはジョージア州知事、レーガンはカリフォルニア州知事、クリントンはアーカンソー州知事といった具合で、2世、3世がトップにと言う例は見当たりません。血統や家柄でトップを選ばない、ビジョンや言葉の明晰さ、周りの人を巻き込む説得力といったものを物差しに政治家を見る習性を身に付け、1票を投じるようになれば着実に政治は変わってゆくと思うのですが、どうでしょうか。

【野村彰男先生より参考までに】

「バイデン政権」

先日のニューヨークタイムズに米国のブリンケン国務長官が、これからの米中関係に臨む米国の姿勢を誠に見事に言い表していましたのでシェアいたします。

Secretary of State Anthony Brinken described the US-China relations as ”Competitive where it should be, Collaborative where it can be, and Adversarial where it must be."

なるほど、と思わせます。この競争的、協調的、敵対的な匙加減を日本をはじめ同盟諸国がどう読んで対応できるか、見ものです。